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静かな世界に響いた、ひとつの歌

池尻大橋#chord_【東京】

歌降る夜 vol.9

開催日: 2025/12/10

福岡未希さんの代表曲『silent』は、単なる音楽作品の枠を超え、「伝えるとは何か」「声とは何か」を深く問いかける楽曲である。耳の聞こえない両親を招待し、手話を交えて歌唱したという背景を知ったうえでこの歌詞に触れると、一言一言の重みが胸に迫り、強い感動を覚えた。


「静寂を切り裂いて 今あなたに伝えたい」というフレーズは、声が届かない現実の中でも、それでもなお想いを届けようとする必死な願いを象徴している。ここで描かれる“叫び”は、音量の大きさではなく、心の強さそのものだと感じた。耳の聞こえない両親に対して歌うという行為は、一見すると矛盾しているようにも思えるが、福岡未希さんはその矛盾を真正面から受け止め、歌と手話という二つの表現で乗り越えている。その姿勢こそが、この楽曲に揺るぎない説得力を与えている。


歌詞の中で描かれる幼少期の情景、「小さな部屋」「TVだけが響く」「隣で笑うのに声が聞こえない」という描写は、孤独や違和感を繊細に表現しており、聴き手に静かな切なさを与える。同時に、「秘密のサイン」という表現からは、言葉を超えた親子の絆が感じられ、温かさも伝わってくる。この対比が、楽曲全体の感情をより立体的なものにしている。


また、「本当は嫌だと思っているよね? こうしてstageで歌うこと」という一節からは、親への遠慮や罪悪感、そしてそれでも自分の夢を追う葛藤が率直に描かれている。「理想のいい子にはなれなくて」という言葉は、多くの人が抱える“親の期待に応えられない苦しさ”と重なり、強い共感を呼ぶ部分である。


しかし、この歌が最も心を打つのは、「でもね、私…あなただったから 夢描けたよ」という一行だ。ここには、過去の葛藤や迷いをすべて抱えたうえでの感謝が込められており、最終的に「ありがとう」という言葉に結実する。その言葉は決して軽くなく、長い時間をかけてたどり着いた答えであることが伝わってくる。


『silent』は、音がない世界に向かって放たれた“沈黙を超える歌”であり、福岡未希さん自身の人生そのものを表現した作品だと感じた。この歌詞に触れ、想いは声だけでなく、表情や手、そして生き方そのものによって伝わるのだということを、強く心に刻まれた。
 

 
 
 
 
 
 
  

投稿者

otooo

2025/12/17 16:23

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