先日来、すっかり「Mudia」のオーディションを覗くのが一つの楽しみになっている。今回はなんと、アカペラグループ限定のオーディションがあるという。正直、アカペラと聞いても、昔テレビで見た番組くらいの知識しかない。楽器も弾かずに声だけで、どうやって人を感動させるんだろう。そんな半信半疑の気持ちで、配信ページを開いた。

しかし、始まってすぐにその考えは打ち砕かれた。いやはや、今のアカペラというのは、とんでもないことになっている。参加していたのは、e.s.t.さん、ムゲン逃避行さん、Veronicaさん、OTOMONOさん、Monologue.さん、7th Heavenさん、兆越さん、Sixth Avenueさん、canᴀriaさん、Merry Tuneさん…と、実に10組。名前だけ見ても本当に個性豊かだ。

例えば、Monologue.さんやe.s.t.さんは、その名前の通り、聴かせるバラードやジャズっぽい洒落たアレンジが印象的だった。声の重なりが非常に美しく、複雑な和音を声だけで表現する技術には、ただただ感心するばかりだ。若い頃にかじったギターでは、こういう響きを出すのは一苦労だが、それを人間の声だけでやってのけるのだから恐れ入る。

かと思えば、ムゲン逃避行さんやOTOMONOさんあたりは、曲の展開に遊び心があって、聴いているこちらも自然と体が動くような、楽しいステージを見せてくれた。

何より全てのグループに共通して驚いたのは、「本当に声だけなのか？」という点だ。特にアンサンブルを支えるベースの音。男性の低い声が、まるでエレキベースのようにブンブンとアンサンブルの底を支えている。さらにボイスパーカッション。まるでドラムセットがそこにあるかのような迫力で、正確なビートを刻み続ける。これには本当に度肝を抜かれた。

そして、グループ編成による魅力の違いも興味深かった。7th HeavenさんやSixth Avenueさんのような男性だけのグループは、声の重なりに厚みと独特の力強さがあり、コーラスに包まれるような迫力がある。逆に、canᴀriaさんやMerry Tuneさんといった女性グループは、その透明感やどこまでも伸びていくような繊細なハーモニーが耳に心地よい。

さらにVeronicaさんや兆越さんのように男女混声のグループになると、表現の幅が一気に広がる。男性の低音から女性の高音まで、音域が広い分、アレンジも複雑でドラマチックだ。宇多田ヒカルさんのような難易度の高い曲も、アカペラで見事に再構築していて、まさに「声のオーケストラ」だった。

正直、どのグループが勝ち上がってもおかしくないほどの、信じられないクオリティの高さだった。それぞれに積み上げてきたであろう練習量と、音楽への情熱がひしひしと伝わってくる。声一つでこんなにも多様な音楽が生まれるのかと、自分の視野がぐっと広がった気がする。楽器を弾くことだけが音楽じゃない、人間の「声」という一番身近な楽器の無限の可能性を、改めて教えられた貴重な体験だった。