またしても「Mudia」のオーディションを覗いてしまった。この間アカペラグループのレベルの高さに驚かされたばかりだが、どうやら別の日にも予選ブロックがあったらしい。前回は「本当に声だけなのか？」という技術的な驚きが大きかったが、今回はまた別の発見があった。

それは、声だけという制約の中で生まれる「アレンジ（編曲）」の無限の可能性だ。若い頃、バンドで好きな曲をコピーした経験がある。ギターやベース、ドラムがあれば、原曲の雰囲気を真似しやすい。だが、彼らは声だけ。その制約が、逆にものすごい創造性を引き出しているように見えた。

例えば、今回のブロックにも個性的なグループが揃っていた。linariaさん、Dearさん、林檎日和さん、咲き麗さん。こうした名前からは、どこか繊細で美しい情景が浮かんでくる。彼女たち（彼らたち？）が歌うと、誰もが知っているJ-POPのヒット曲が、まるで絹の織物のように緻密で、透明感のあるバラードに生まれ変わる。メロディがいかに美しいかを再認識させられる瞬間だ。

かと思えば、天狼さんや、雷電為右衛門二世さんといった、いかにも強そうな名前のグループもいる。彼らが歌うと、同じ曲でも、地を這うようなベースラインと鋭いパーカッションが際立ち、熱量の高いロックナンバーのように聴こえてくるから不思議だ。Organic Emotionさんやabynusさんのようなグループは、R&Bの複雑なリズムやグルーヴを声だけで表現していて、その技術力には舌を巻くばかりだった。

Uruや宇多田ヒカルの曲が持つような、メロディの芯の強さを引き出すアレンジには、特に心を掴まれた。どのグループも、原曲への敬意と、自分たちの音楽を表現したいという強い意志が感じられる。

また、これはバンドも同じだが、「グループの化学反応」が実に面白い。CLiPSさんのように、カチッとピースがはまるような一体感。単に技術がうまいだけでは、こうはならない。リードボーカルの感情的な歌声と、それを包み込むコーラスワーク。一瞬のズレも許されないタイミングで重なり合い、また離れていく。誰か一人が突出するのではなく、グループ全員で一つの「楽器」として機能しているような、不思議な一体感がある。

きっと、どのグループも「この曲をどう表現したいか」を徹底的に話し合い、試行錯誤を繰り返してきたのだろう。その情熱が、画面越しにも伝わってくる。声という一番原始的な楽器が、こんなにも多彩な景色を描き出せること。そして、そこには必ず「人」と「人」との繋がりがあること。音楽の楽しみ方は本当に一つじゃないと、改めて感じさせられた。決勝では、どんな魔法を聴かせてくれるのか、今から楽しみで仕方がない。