「声の個性」を活かす、アカペラの懐の深さ
【グループH】渋谷アカペラストリート2025
開催日: 2025/10/19
この数日、「Mudia」でアカペラのオーディションを見続けるという、思いがけない趣味ができてしまった。回を重ねるごとに驚かされるのは、その多様性や文化の層の厚さもさることながら、私自身が音楽を聴く「耳」が少しずつ変わっていく感覚だ。
若い頃にバンドでギターを弾いていたせいか、ボーカルといえば、どうしても「声量」や「音域の広さ」といった、分かりやすいパワーに耳が行きがちだった。だが、このアカペラというジャンルは、それだけが物差しではないことを痛感させてくれる。
今回のブロックにも、個性豊かなグループが揃っていた。「Pink Panther」や「Banger Funker」、「100℃」、「タチコギ」といった、名前からしてエネルギッシュなグループ。彼らのパフォーマンスは、もちろん声のパワーやリズムのキレが素晴らしく、聴いているこちらまで元気が出てくる。
その一方で、「カプチーノ」や「水鏡」、「Stylus.」といった、繊細な響きを持つグループもいる。彼らの演奏を聴いていると、必ずしも全員が朗々と歌い上げているわけではないことに気づく。ささやくような声、あえて息を多く含ませたブレス、細くても真っ直ぐに届く声。そうした一つ一つの「声の質感」が、絶妙なバランスで重なり合い、一つの音楽になっている。
「Flawless(完璧な)」と名乗るグループの緻密なハーモニーも、「咲ケ〆惚レ(さきしめほれ)」や「モンテピノス」といった独特の世界観を持つグループも、それぞれが自分たちの声の個性を知り尽くし、それをアンサンブルの中でどう活かすかを計算し尽くしているように感じた。
大声が出なくてもいい。むしろ、その繊細な声質こそが、グループにとって不可欠な彩りとなっている。これは、アンプで音を増幅させるバンドサウンドではなかなか気づきにくい、生身の声ならではの奥深さだろう。
私が好きなUruや宇多田ヒカルも、圧倒的な声量で押すタイプというよりは、その唯一無二の「声の魅力」で聴く者を惹きつける。アカペラは、そうした一人一人の声の個性を持ち寄り、パズルのように組み合わせて一つの作品を創り上げる、非常に知的で繊細な作業なのだと、改めて感じ入った。この世界は、知れば知るほど奥が深い。
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