警備員小砂のおすすめ5
アサガヤガールズコレクションVol.235
開催日: 2026/01/18
夜の遊園地は、昼とは別の顔を見せる。照明が落ちた園内では、アトラクションは動かず、空間だけが残る。広さを測るように歩きながら、俺は異常がないかを確認していく。ここが今の持ち場だ。理由より、現実のほうが先にある。
巡回の途中、イヤホンから流れてきたのが鈴木千絵の「ファスタービート」だった。耳に入った瞬間、リズムが身体に噛み合った。一定で、迷いがない。足の運びが自然に整う。前へ進むための速度が、最初から決まっている音だ。
この曲には、覚悟がある。感情をぶつけるでもなく、気分を誤魔化すでもない。ただ、今いる場所から前へ出るための力を、淡々と供給してくる。鈴木千絵の声は、夜の空間に負けない強さを持っている。張り上げなくても、輪郭が崩れない。その安定感が、巡回中の集中を切らさない。
園内の奥で、止まったジェットコースターのレールを見上げる。勢いを売りにする乗り物が眠る時間帯に、この曲のビートは生きている。速さそのものより、進み続ける感覚がある。走らなくてもいい。ただ、止まらなければいい。
サビに入ると、音はさらに前を向く。背中を叩くような押しつけはないが、足元は確かになる。選んだ道を疑わず、今の位置を肯定する力がある。夜の仕事には、こういう音楽が必要だ。
巡回表を確認し、次のエリアへ向かう。大丈夫だ、このテンポで行ける。焦らず、崩さず、最後まで歩ききる。そのためのビートが、今は鳴っている。そう自分に言い聞かせて、俺はまた一歩、暗い園内を進んだ。
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