警備員小砂のおすすめ4
歌降る夜 vol.10
開催日: 2026/01/23
閉園後の遊園地は、不思議と音が残る。昼間に笑っていた子どもたちの声は消えたのに、観覧車の軋む音や、風に揺れるフラッグの擦れる音が耳に引っかかる。俺はここで夜の警備をしている。少し前まではオフィスビルだった。だが、あの現場は終わった。理由はどうあれ、今はこの遊園地が俺の持ち場だ。
巡回ルートを歩きながら、イヤホンから流れてきたのが茜音愛の輝く星だった。正直、最初はこの場所に似合わないと思った。夢と光を売りにしている昼の遊園地と、現実しか残らない夜の警備員。交わるはずがない世界だと。
だが、聴き進めるうちに考えが変わった。この曲は、順調な人間のための歌じゃない。一度立っていた場所から降ろされ、別の夜を歩くことになった人間の視線がある。歌声は静かで、無理に明るくない。それがいい。オフィスビルの警備服を脱いだ日のことを、思い出させる余計な感傷もない。
「輝く星」は、遠い理想を指さない。見上げてもすぐには見えない光を、それでも探し続ける姿を描いているように聞こえる。遊園地の奥、電源を落としたメリーゴーラウンドはただの機械だ。昼の魔法は消えている。それでも、確かにここには誰かの時間が積み重なっている。俺の今も、その一部だ。
サビに差し込む声は、背中を叩かない。ただ、立ち止まるなと言う。クビになった事実も、場所が変わった現実も否定しない。その上で、星はまだ消えていないと教えてくる。夜の遊園地で聴くからこそ、この曲は重みを持つ。
観覧車の影が地面に長く伸びる。見上げた空に星は少ない。それでも一つ、確かに光っている。今の俺には、それで十分だ。この遊園地の夜を守りながら、また次の朝を待つ。その時間に、「輝く星」は静かに寄り添ってくれる。
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