パフォーマンスに触れ、私たちは「弱さをさらけ出すことの強さ」を教えられた気がします。彼女が掲げる「自己否定の肯定」というテーマは、日々、社会の中で自分を律し、時には押し殺して生きる大人たちの心に、深く、静かに染み渡るものでした。

ライブの見どころは、何と言ってもルーパーを駆使したアコースティックアレンジにありました。 単一の音を重ね、厚みを作り出していくそのプロセスは、まるで一人の人間の中に潜む多面的な感情を一つずつ積み上げているかのよう。「味変」と彼女は軽やかに言いますが、その一音一音の重なりによって曲の表情が劇的に変化していく様は、非常に高い音楽的センスとライブアーティストとしての矜持を感じさせました。

「自己否定を肯定する」という言葉の裏には、自身の痛みを徹底的に見つめ、それを否定せずに受け入れるという、非常に成熟した精神性が宿っています。 何者かにならなければならないというプレッシャーに晒される現代において、彼女の音楽は「虚無のままでも、そこから花を咲かせることができる」という、逆転の希望を提示してくれました。その歌声は、無理な励ましではなく、静かな「共感」として私たちの隣に座ってくれるような心地よさがありました。

音楽だけでなく、イラストや動画制作までも自ら手がける彼女の活動スタイルは、一つの巨大な「物語」を構築しているように見えます。 SNSで見ることができる視覚情報と、ステージで放たれる聴覚情報。それらが合致したとき、流川慈綺というアーティストが持つ世界観は、より立体的な厚みを持って立ち現れます。新曲の配信も控えているとのこと、彼女の表現という名の「花」が、次はどんな色で咲くのか、期待せずにはいられません。

 あなたの音楽は、完璧ではない自分を愛するための「拠り所」のような存在です。 技術的な巧みさはもちろん、その根底にある誠実な人間性に、多くの大人が癒やされたことでしょう。

次の配信曲も、そしてこれから広がる創作活動も、一人のリスナーとして、そして一人の大人として、大切に追いかけていきたいと思います。素敵な夜をありがとうございました。