「抜かれてる！あと5秒……いけないかー」
「……」
「えっ……！？勝ったぁ！待って勝ったじゃん！かったぁっ……っ……」
諦めと歓声。その直後に彼女は配信画面の外へと泣き崩れた。
投票締め切り時刻の前後、十秒程の事だった。
大量の投票データからくる、サーバー負荷によるタイムラグ。
AYUKAのセミファイナル突破が、本人の目に明らかになった瞬間だった。

ARTIST LEAGE Grand-Prix 2023 セミファイナルＤグループ。
AYUKAにとって、過去最大の試練であったに違いない。
向かい風は強かった。
様々な要因が重なり、AYUKA陣営は強みであるファンの数を活かしにくい状況となっていた。
エポスカードの新規入会キャンペーンは二年前の同キャンペーンに比べ、3倍のポイント数を獲得出来る。
しかし過去のキャンペーンにおいて、主立ったファンは既に入会済みであるため、獲得は困難だった。
加えて応援キャンペーンクーポンの配布も、セミファイナル以降は行われない。
他にもAYUKAを体力的、精神的に消耗させる出来事もあった。
非常に強い向かい風である。

そんな状況の中、AYUKAとファン達は限られた時間の中で最大限の行動を始める。
事前にポイントを十分に集めなければ、勝負にならないからだ。
いくつものレポートを作成する人がいた。
地道にレポートへコメントを付ける人がいた。
友人やその先の繋がりの人にまで、応援を頼む人がいた。
SNSで呼びかける人がいた。
エポスカードに入会してくれる人がいた。
自らのファンに、AYUKAの応援を呼び掛けてくれる同業者がいた。
AYUKAは使える時間を全て使い、ネット配信で応援を募り続けた。
彼女は投票日まで二晩寝ていない。
そしてその配信を常にサポートし続ける人もいた。
誰もが必死だった。

投票は凄まじい接戦となった。
AYUKAはネット配信から推移を見守っている。
後半に追い上げるAYUKA陣営とスパートをかける他陣営。
終盤に一気にポイント数を跳ね上げたYuMe氏の陣営には、脱帽するしかない。
どちらが勝ってもおかしくない勝負とは、まさにこのような物だろう。
全ての陣営が全てを出し切った最後の数秒は、それ故に表示の遅延を起こし。
AYUKAに諦めと喜びをもたらした。
見事な勝利だった。

余韻に浸る間もなく、ファイナルに向けた戦いは始まっている。
行動は早い方が良いのだ。
願わくばこれまで以上の応援が、評価が、AYUKAの元に集まらんことを。