それは、身近に居そうな一人の女の子による推し活から始まった。
身近に、と言うには少々ネガティブ思考が強い傾向があるかもしれないが……。
とにかく、彼女が大好きな女性シンガーソングライターの書いた本を手に入れた時から、それは始まったのである。
伝説的な音楽家達の物語は、楽器を手にした瞬間から語られる事が多い。
兄弟の所有するギターであったり、親のピアノ、先輩のトランペットなどで初めて音を出した瞬間だ。
しかし彼女、AYUKAの場合は本から始まったとするのが妥当だろう。
本の著者である植田真梨恵氏は、AYUKAの夢の到達点の一つであるのだから。
本を手にしたAYUKAは程なくしてギターを手に入れた。
読んでいるのがギターの解説本なのだから、最も理解を深めるのは実際に試してみる事だ。
一人で黙々とやってみるよりはと、この練習の様子をライブ配信アプリで流したAYUKA。
これで状況は大きく流れ始める事となる。
固定ファンが付き、投票イベントへの参加、そして優勝へと繋がりオリジナル曲「コーディネート」の誕生となった。
"ミュージシャン"としての活動が始まったのだ。
私はこの頃のAYUKAを知らないので、見聞した事を元に書いている。
他のファンのレポートで詳しく知る事が出来るだろう。
本格的な音楽活動開始からは破竹の勢い、と言いたい所だが、やはりそう華々しく活躍出来る程甘くはない。
急勾配の岩山を転び、滑り、傷を負いながら駆け上がっている印象だ。
それもそうだろう。
配信アプリを始めとする新規ファン獲得の活動。
オリジナル曲を増やす為の勉強、練習、レコーディング。このピッチは驚く程早い。
ライブへの参加及び開催、それに伴う練習、リハーサル、宣伝。
そして知名度アップの為の各種イベント参加。
これらを殆ど同時進行でこなしているのだ。
焦りに襲われたり、精神的に参ってしまう時もある。
理想的な結果ばかりという訳にもいかないはずだ。
道の険しさに途方に暮れる時もあるだろう。
それでも登る脚を止めないのがAYUKAだ。
本人の希望に対してどの位かは分からないが、岩山の相当な高さまで登って来ているだろう。
何せ駆け上がっているのだから。
一緒に登ったファン達も良い眺めを楽しんでいるはずだ。
そしてきっと、もっと良い景色をAYUKAと見たいと願っている。
岩山の高さは果てしない。
アーティストリーグ勝利という場所は雲の上にあるのかもしれない。
だがそこに立てば、きっと頂上への道も探せるはずだ。
夢という頂上に至る道が。
一冊の本から始まった物語が、夢の高みに繋がらん事を。