魅力的な歌い手たち
BLOW OVER
開催日: 2022/06/18
白井太一朗さん
皮肉と冷笑でコーティングした繊細なメッセージ。
きっと照れ屋な人なのだろうと思う。
「ダサすぎて草生える」という楽曲のサビで繰り返される、何物にもなれずに歳を取っていくことの焦りは、今同じ思いに苛まれている若い世代のみならず、かつて若者だった人たちの心にもダイレクトに響く事だろう。その思いを真っすぐに歌うだけで、あなたはもう何者かであるのだと、いつか気付く日が来るはずだ。
どの歌を聞いても、この方の他人との独特な距離の取り方が垣間見えて来る。本当は人懐っこい素顔を隠して、いつも皮肉から入ってしまう人間関係。軽い自己嫌悪を感じつつ、でも同じことの繰り返し。ため息をついて、そして歌を作るのだろう。
おだゆきさん
懐かしさを感じさせるメロディと、牧歌的な風景の浮かぶ言葉遣い。でもその中に、ひりつくほどの孤独感。柔らかな音と、言葉でコーティングされた過ぎた日々への憧憬と、続いて行く日々への不安。それでも、きっとこの人は、明日や明後日はだめでも、一か月後はきっと気持ちが暖かくなるささやかな喜びが待っていることを信じているのだろう。
ただ、この人の歌からは、いざそんな喜びを目の前にしたら、なぜかふと足を止めて、前へ出ることを躊躇してしまいそうな空気感が漂う。
心から何かを信じるのは、なんだか少し無責任なことのように思っているのかもしれないって気がしてしまうのでした。
菅野創一朗さん
小さな部屋の窓から見える風景を語っているうちに、いつの間にかその視点が高い空の上に昇っていく。ミクロな描写が感じさせるマクロな世界観は、まさにフォークソングの王道。
寒々とした風紀描写の中に、本当の意味で他人や世界に触れることが出来ないもどかしさが垣間見え、いつの間にか聞く者を深夜の裏路地へと誘っていく楽曲。歌の中に、答えらしきものがわかりやすく見えて来ないために、知らない町の裏路地で取り残されるような気持ちになるが、優しげなギターの音色は、いいからそこで少し立ち止まって周りをゆっくり見渡して見ろよって言ってくれる。
静かだけど、冷気と熱が同居する複雑な歌を聞かせてくれる人だ。
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