ベスハチには「冬限定」の曲がある。

まるで期間限定のお菓子みたいに冬にしか聴くことの出来ない一曲。

ゼルバニアはソレで冬を感じるのだ。

今年もぐっと寒くなって、そろそろかな？と思いつつ今か、今かと待っていた。

それが今回「弾かせ語り」で聴くことが出来た。

弾かせ語りとはいつものバンドではなく、ミワさんとギターのこふじさんお二人でのパフォーマンスの事を指す。

バンドサウンドは勿論アコースティックで聴くベスハチの曲も素晴らしいのは言うまでもない。

ミワさんの書く歌詞が一つ一つ際立って丁寧に目の前に並べられるかのように立体感をもつのだ。

そして冬限定の曲

「氷点下」

出だしの

「終電で別れ話をしにいく」

もう、この一行目の歌詞でノックアウトである。

はいはいはいはい。

覚えがありますよ。

私のことでしょうか？

帰り道の無い電車で会いに行ったあの日。

別れ話をして帰ってこよう。

どうやって？

分かってる。分かってる。

コレしか無いの分かってる。

今なら引き返せると思いながら電車に乗ったあの日。

氷点下を聴くとまざまざと思い返される。

脱ぎ捨てた下着行方も分からない。

自分とこの人の行方も分からない。

分かっているのは心が離れてしまった今、この関係は間違っていると言うこと。あと一歩を踏み出せずに居ると言うこと。

なんか違う。

間違っている。

この関係は。

と思っていたあの時を。

ミワさんは私の恋愛を知っているのか？

見ていたのか？

彼の部屋のカーテンの隙間からみた青白い夜明けの光とか。

後ろで閉まるドアの音とか。

一曲聴くと全部、全部思い出す。

胸を掻きむしりたくなる。

人間は定期的に傷ついた過去を思い出してしまうというのは一種の防衛本能である。

まさにこの曲は私の防衛本能に火をつける曲なのだ。

年を重ねた今、過去としてみられる今。

苦しかった過去を取り出して見せてくれる。

もうこんな不毛な思いを繰り返さないようにと。

こふじさんの弾くギターの音、一つ一つがミワさんの書く物語の句読点のようだった。

MCはミワさんのオールアドリブだそうなのでご本人はあまり覚えて居ないとの事。

まるで、一冊の本の朗読を聴くかの様なMC。

やはりミワさんはステージに立つために産まれてきたのだろう。

そしてもう一曲

「嘘とバスタブ」

はじめて聴いた時の衝撃たるや…　

本日2度目の「覚えのある気持ちの歌詞」

「この人は浮気してる　眉の動きですぐわかる　問い詰めたりなどしない…」

例えば、目の前で一緒にご飯を食べていてふと、目にとまった映画のCMで「これ、この前見て来たって行ってたやつ？」

「いいえ」

「あれ？違う人かな？」

の間の泳いだ目とちょっと下がった眉尻。

おっと、この違和感は何処から来るのか…

でも、好きだから暫くは見て見ぬふりをしようと喉の奥の違和感とパスタを飲み込んだ日。（フィクションですよ。フィクション。…多分、フィクション。のはず…。）

ミワさんがMCで仰っていた

男と女、同じ空間を見ていても見ている場所が違う。

その空間の細かいノイズに気づくのが女性だったりする。

分かり過ぎる…

「あれ？おかしいな？コレってこんなだったっけ？」から浮気の発覚する様のリアル…

でも好きだからいっそ丸ごとバスタブに沈めてしまおう。

曲最後の息づかいはどちらの方のものなのかな…

愛おしいとか興奮とか、怒りとか悲しみとか色んな気持ちが合わさったあのラストの息づかいがたまらない。

この2曲を聴いて息も絶え絶えでいたら

最後の曲は「揺籃と棺桶」

あれ？新曲？？

（まれに新曲をサラッと披露される事があるので後で公式Ｘでチェックしよう…）と思ったら、ベスハチ前身バンドの曲だった。

現地にいらっしゃった当時からのゼルバニアの混乱ぶりからみて本当に久しぶりの披露で、私みたいに日の浅いゼルバニアは「新曲？素敵！！」なんて呑気に聴いていた。

ベスハチの曲は殆どがミワユータさんの作詞作曲であり、前身バンドの楽曲も今のバンドサウンドにアレンジし直して披露される事もある。

正直ファンとして過去の曲が聴けるのは凄く凄く嬉しい。

いつもの迫力のあるバンドは勿論、やはり弾かせ語りも素敵だった。

そして、今回新発見が1つ。

ミワユータさんは魔法使いでもある様だ。

「さぁ、目を閉じて。3つ数える。そしたら、私たちは友だち。」

次回もとても楽しみだ。

ミワさんの出演されるライブは私の生きる力である。

間違いない。